「キーエンス解剖 最強企業のメカニズム」の感想


年始に「キーエンス解剖 最強企業のメカニズム」を読んだ。感想を軽く書いていく。

読み始めたきっかけ

キーエンスの非公式キャッチフレーズ「30代で家が建ち、40代で墓が建つ」が面白かったので。 これ考えた人誰か知らんけどセンスあるな。

どんな本?

キーエンスは外部からの取材に応じることが比較的少なく、仕事のやり方がそこそこ謎に包まれている企業らしい。 そこで、日経ビジネスの記者である著者が、キーエンスと取引のあった会社や元社員に取材を行い、その結果を元にキーエンスの仕事のやり方を分析した。という本。

そのため、各章で ”「~~」と話すのは、△△を手掛ける株式会社◯◯の代表、AA BBだった。” といった文章が頻繁に出てくる。

バキで花山薫の戦いを見ていた警察官が「やはりアナタ達はワカってない。花山薫という人物を―――」と語り始めるシーンがあるが、あれと大体同じ。

気になったところ

読んでいて気になったところをいくつかピックアップしていく。

ロープレ

キーエンスの営業は、ほぼ毎日18時以降に商談のロールプレイングを行っているらしい。そうやって営業の能力を鍛えている。なるほどね。

社内日と社外日

キーエンスの営業の日々の業務内容は、ざっくり週に2度の「社内日」と、3度の「社外日」に分かれているらしい。 社内日には、社内で雑務をこなしたり顧客に電話をかけまくったりする。 社外日には、ひたすら顧客を訪問する。ただし社外日の場合、あらかじめ5件以上のアポを取っていないと外出が許されないらしい。 新人の社員が、外出日までに2件しかアポを取れず、外出が許可されなかったため泣く泣くその2件をキャンセルしたこともあるとか。

…いや、2件取ったんならその2件はキャンセルしないでちゃんと行った方が良くない?と思ったんだけど何か考え方の違いがあるんだろうか。

そんな感じで、外出日には1日で大量の商談をこなすことになるため、ちゃんと最短ルートで訪問できるように移動ルートをかなり考えるらしい。 これ本物の「巡回セールスマン問題」だ!

特注品否定派

キーエンスは、顧客から強い要望があっても、基本的に特注品を開発することはないらしい。 作ったところで、他の顧客に売りにくい製品になってしまうため、かかるコストに対するリターンが見込めないからだとか。

「日本のSIerはアメリカとは違い、フルスクラッチで特注品ばかり作っているから全然稼げてない」みたいな話、色んな本に出てくるけど、 それにかなり近い話だな。

即納と信用

キーエンスは、常に全商品の在庫を確保しておき、即納を絶対としてきたらしい。これは一見、在庫を抱え続けるコストが無駄に発生し、利益につながらない行為に見える。しかしこの「即納」というブランドを守り続けることで企業の価値を維持し、顧客の信頼を得て、長期的にはプラスになっている。

目先の利益を捨ててでもブランドや信用を取りに行く、ってのはまぁ大事だよな。

これは別の本で読んだ内容だけど、会社経営において、法人税をちょっと安くしたり分割払いにするために、あえてちょっと赤字にする、というライフハックがあるらしい。しかし、このハックに頼ると、銀行などの公的機関からの信用を得にくいため、不況の時にかなり致命傷になるそうだ。つまり普段から素直に黒字決算にしておくことで、銀行の信用を得ていた方が長い目で見た時に得だ、ということ。 多分それと似たような話だろう。

経営者意識

キーエンスでは、社員に営業利益の一部(恐らく15%程度らしい?)を還元しており、またその仕組みや計算式が公開されているらしい。 これにより、社員が経営者意識を持つことができる(というか持った方が得である、と思える)ようになっている。

会社が一介の社員に「経営者意識を持て」って言って持たせようとするのは、組織の運用としてはよくアンチパターンだと言われがちだけど、ここまで徹底してるならかなり有効そうだよな。

情報の囲い込みはダサい

キーエンスは、自分が持っている顧客情報や商談のテクニックなどを隠し持つことは「ダサい」ことであるとし、ナレッジの共有を徹底しているらしい。

なにやら昔はナレッジを共有するための社内システムがあり、そこで業務に関する質問や回答をするとポイントが貯まっていく、みたいな仕組みがあったとか。キーエンス版Yahoo!知恵袋か

情報や技術はできる限りオープンにしていった方が良いよな、っていうのはITの一般的な考え方と同じだ。営業でもそうなんだな。

全体通しての感想

Twitter上だとよく「技術者と営業は対立しがち」みたいな事言われてたりするけど、実は互いに仕事のやり方を突き詰めていけば結構考え方も似てきたりするんじゃない?という気がした。私は営業の仕事について何一つわかってない気がするが、それでも理解しようと努めるのは必要だな。